テレビディレクター・久保芳夫氏インタビュー


 初歩的な質問ですが、ディレクターとプロデューサーの違いはなんでしょう?

仕事の違いとしてディレクターは主にVTRの製作、バラエティーのトーク内容決定、プロデューサーはキャスティングや製作費の決定、局のトップとの対談ですね。一言でいえばディレクターは現場監督、プロデューサーは管理人ってところです。ディレクターは上にチーフディレクター、監修の役職があり補佐役としてADがいます。プロデューサーの場合はAPが補佐役として働いています。

男性が多いと思われがちですが女性ディレクターも多いです。印象としては強い!内面が男性のように感じることがしばしばですね(笑)

仕事の中でやりがいや苦労を感じるときはいつですか?

やりがいはこの仕事に関わらず、儲かるか、やりたいか、楽しいかの3つだと思う。あとはやっぱりプロとして楽しく感動させるものを作るかな。

今の苦労はVIPと会うとき。人間力が試されるから。あとはみんなの想像する通り時間との闘い。今までに一番追い込まれたのは作成した20分のVTRを、46分に引き伸ばせって言われたこと。タイムリミットは48時間で、素材もない。飛行機の中で6時間編集してなんとか間に合わせた。早急に作ることなんて日常茶飯事でよくあることだけど。睡眠不足との闘いも覚悟していたし、大学時代に先輩からの話も聞いていたから想像通りの職場だったな。

 

この業界に入ろうと思ったきっかけはありますか?

つらいとき、暗い部屋でTVをつけるとその中がとても賑やかで楽しそうだった。だから自分もその世界に入りたいって感じた。コント作ってみんなを笑わせたいって。

念願の仕事に今就いたわけですが、ディレクターと

いう仕事はどんな人に適性があると感じますか?

スキルなんて特にいらない。「いいヤツ」であることが適性だと思う。個人で仕事するわけじゃないから、社会人みんなに必要なことだけど。TVは文化祭と同じで、毎日お祭りをやっているようなもの。仕切れる人も、黙々とやれる人も、丁寧な人も、おもしろい人もこの業界にはいてほしい。話さない、興味がない、行動しないが一番ダメ。つまり文化祭で役に立たない「上から目線の批評家」はいらない。情熱があって常に前のめりの姿勢で取り組んでくれる人、TV映像が好きな人なら大歓迎!

 

『必要なスキルはない』と仰いましたが、では学生時代は何をして過ごしていましたか?

誰よりも面白い経験をするためによく海外に行っていたな。当時は放送系のサークルには入ってなかった。あとサーフィンも趣味でよくやっていたよ。入社すればプロの仕事を覚えるから放送系サークルで活動していなくても大丈夫だとは思う。もし、ゼミなどで映像コンテンツ制作の機会があるのだったら一番に「見た人に何を伝えたいか」を意識すること。あとは、できるだけ費用の掛からないテーマを決めたほうが良いな(笑)

 

もし、もう一度大学生活ができるなら何をしたいですか?

英語圏で留学!(即答)英語圏ならどこでも構わない!海外のTV局と仕事をすると急な指示とかあるから英語が確実にできていないとダメだよね。バスケが大好きでMBAの中継やりたいのだけど本当に残念。

 

学生生活の中で様々な経験をされていましたが、その中で番組制作に影響を与えたものはありますか?

旅行が大きいかな。さっきも言ったけど刺激を求めてよく海外に行っていてね。面白くて感動する番組を作れるかどうかは、作り手の「経験」と「知識」の量に比例すると思ってる。学生時代の旅行はその両方を多く得られて今につながってるんだ。それと番組制作の仕事に「映像に似合う曲をあてはめる」という作業があるんだけど、ある時、ある映像にエリック・クラプトンの曲が「ぴったりはまった!」って思えた事があった。もともと音楽は好きでよく聴いていたんだけど、海外旅行をしていた時にもたくさん曲を聴いて、その曲のイメージを膨らませていたんだよね。無意識だったけど、そんな作業を通して、曲のイメージが自分の中に吸収されていたいみたいで。クラプトンが「ぴったりはまった!」って思えたのには、そんな経験が影響していたんだと思う。

学生生活じゃないけど日常生活ではグノシーってアプリをダウンロードして情報を集めてる。これは必須だね。あとは、日常にはまらない、枠の外れたことをした経験!学生のときはよくやっていたよ。ピノデーとか言ってピノ配りまわったり、ハンバーガー100個買ってみたり、イルミネーション委員会発足させて勝手に人の家のイルミネーションを審査してみたりね(笑)

今の若い子たちに言うとしたら、年上の年代で流行したものを調べとくといいと思うよ。

調べる・・・今の新卒は幅広い知識を持っているものなのでしょうか

(幅広い知識を持っている新卒は)あまりいないね。現代って莫大なコンテンツがあるから知っているほうが珍しいと思う。狭く深く知識タイプが多い。あぁでもTV業界で働いている人たちは、特定のジャンルに知識や好みが偏っているなんてことはあまりないね。入社してからは様々なジャンルの番組を見たほうがいいけど学生のうちは意識してなくても大丈夫だよ。ドラマだけ、バラエティーだけだっていい。

 

就活生が一番気になるところですが、採用する側として面接時によく思うことはなんでしょう?

最近の子によく思うのは決め手に欠ける、かな。いかにインパクトを面接官に与えられるかが重要なの。緊張しているのもわかるけど、緊張はこれからずっと付きまとっていくものだからね。慣れたほうがいい。この仕事に関しては緊張が裏目に出得て失敗につながることもある。女性には勧めないけど、男性にはナンパをして断られることに慣れることを勧めているよ(笑)

面接時に「どのTV番組が好きか」ってきかれることもあると思うけど、受けている局でも他局の番組でも気にしなくていい。適性のところでも言ったけど、情熱のある人が欲しいと感じるしね。ミーハー精神も立派な才能だと思うし、ある程度必要だと思うよ!結局のところ面接ではその人のTV愛を確かめたいだけなの。

 

最後になりますが、今後挑戦したい番組はありますか?

社会に挑んでいくような番組がやってみたいな!今自分たちが当たり前と思っているその常識が本当に正しいのかを追求していきたいね!

 

~学生に向けてメッセージ~

今までずっとサービスを受けてきた側にいた自分が今度はサービスを提供する側に変わる。その切り替えが難しいから最初は本当に苦労すると思う。それに今の日本は大手企業に入社したって安定なんてものはないんだ。学生時代にはTV業界1本にしぼってたくさんの企業を受けた。そんな風に心の中でこれ一本!を決めて進んで。4年間で卒業ということに囚われず、やりたいことを思う存分やってください! 

ゲスト

久保芳夫 氏(テレビディレクター)

略歴

株式会社アズバーズ(2001年度入社)

職種:演出・プロデュース 

ADとして『とんねるずのみなさんのおかげでした』『たけしの誰でもピカソ』『奇跡体験!アンビリバボー』『27時間テレビ』『平成教育委員会』各特番などを制作。

ディレクターとしてW杯特番/Eテレ『団塊スタイル』/TBS『世界さまぁ〜リゾート』/日テレ『ナイナイアンサー』『中居君6番勝負・バスケット編』 などを制作。

実施日

2015年4月28日